(年金の世代間格差)『ネズミ講』にしないために・松井彰彦氏

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国会は、集団的自衛権・カジノ(IR)に話題が集中しています。
確かに大事な事ですが、こちらも、今、手を打たないと大変な事になります・・・
実は若い世代の関心事は、これが一番かもしれません・・・

(引用・6/13 朝日新聞)
(読み解き経済)「ネズミ講」にしないために 松井彰彦
勝ち逃げできそうな世代も改革に反対していると、実は大変な罠(わな)が待ち受けている。勝ち逃げの前提は、「次の人」が払ってくれることである。しかし、負けると分かっているネズミ講に入る人がいないのと同様、損すると分かっている年金の保険料を納付する人はいない。そうなれば勝ち逃げの目論見(もくろみ)は年金制度とともに崩れ去る・・・

3日に公表された公的年金の財政検証(5年に一度、政府によって行われる年金の健康診断)では、積立金の運用利回りが名目5~6%で続くという見通しの甘いシナリオを除くと、給付額が現役世代の手取り収入の5割を切る(現在は6割強)などといった切実な数字が明らかになった。年金問題の本質は何か。経済学で読み解いてみよう。

僕が子どもの頃、祖母は保険料を支払っていないのに、年金を受け取っていた。「おばあちゃんの年金はお父さんたちの保険料で賄い、お父さんたちの年金は彰彦たち次の世代の保険料で賄うんだ」と父から聞いて「ふうん」と思った記憶がある。

「ネズミ講とどこが違うの」。「ネズミ講は人口が有限ならば、どこかで終わって最後のほうの人が損してしまうけれども、年金は常に次の世代がいるから終わりがないんだ」。これが年金の賦課方式だと分かったのはずっと後のことだ。

小島寛之著「数学的思考の技術」は、数学上の概念である無限大が年金制度と深く関わっていると指摘する。用いているのが、ドイツの数学者ヒルベルトが考案したホテルの話である。宇宙空間に「ホテル ヒルベルト」がある。不思議なホテルで部屋が無限にある。しかし、宇宙空間のことだ。宿泊客も無限にいる。

ある日、このホテルが何と予約で満室になってしまった。そこへ客がもう1人やってきた。マネジャーは澄まし顔で一言、「お部屋を用意しましょう」。1号室に入る予定だった客を2号室へ移す。2号室に入る予定だった客を3号室へ移す。…1万号室に入る予定だった客は1万1号室へ…。こうすれば、どの客も閉めだすことなく、新しい客を空いた1号室に入れることができる。

年金もこれと同じで、第0世代の年金を第1世代の保険料で賄い、第1世代の年金を第2世代の年金で賄い、としていけば保険料を払わなかった第0世代に年金を支給できる。

ちなみに部屋数が有限のときには、このような芸当はできない。たとえ1万室あるホテルでも、1万号室の客の行き場がなくなるからだ。

さて、支払額よりも受取額が多くなるためには、ネズミ講のように次の世代が前の世代よりも増えている必要がある。最初にネズミ講に入ってお金を支払った人は、次に入る人を2人見つけてくれば得をする。次の人はさらにその次に入る人を2人見つけてくればよい。仮に、手数料を無視して、1人1万円払うことになっているとしよう。すると、2人見つけてくれば、1万円支払って2万円受け取ることができるので、1万円の得となる。

逆に、ネズミ講で、2人がかりでようやく1人の「次の人」を見つけてくる状況を考えてみよう。このとき、1万円支払うのに対し、受取額は、2人で折半しなくてはならないから、5千円となる。結果的に5千円損することとなってしまう。少子化時代には、受取額が先細るため、賦課方式だと最初の世代以外、みんなが損するのである。
(続く…)

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(引用続き)
ネズミ講同様、勝ち逃げできる世代も生じる。その結果生じるのは世代間格差だ。鈴木亘著「社会保障亡国論」によると、社会保障の受け取りから支払いを引いた損得勘定で言うと、1940年生まれの人が5千万円近いプラスであるのに対し、2010年生まれの幼児は3500万円超のマイナス(借金)であるという。

勝ち逃げできそうな世代も改革に反対していると、実は大変な罠(わな)が待ち受けている。勝ち逃げの前提は、「次の人」が払ってくれることである。しかし、負けると分かっているネズミ講に入る人がいないのと同様、損すると分かっている年金の保険料を納付する人はいない。そうなれば勝ち逃げの目論見(もくろみ)は年金制度とともに崩れ去る。だから、次世代が保険料を納付してくれるよう、若者が損しない年金制度改革に一刻も早く着手しなければならない。実際、国民年金の未納付率は約4割であり、この数字が今後どう変化するかは、年金制度が現役世代にとって魅力的か否かにかかっている。

しかし、魅力的ならばみんな保険料を納付してくれるという想定にも注意が必要である。誰も納付しなければ年金制度は破綻(はたん)するから、そのときに自分だけ納付するのは愚かである。魅力的な年金制度を作ると同時に、みんなが保険料を支払うように誘導しなくてはならない。

そこに社会保障税という発想が出てくる余地が生じる。人々の任意参加に委ねるのではなく、社会保障を強制力のある税金で賄ってしまおう、というわけだ。それでも自分たちが始めたネズミ講のつけを子どもたちに負わせるようなことをしていいのか、という疑問は残る。

年金問題は制度設計をした政治家や官僚だけのせいではない。年金開始年齢の引き上げや増税など新たな財源の確保などの施策に反対し続ければ、そのつけは若年世代だけでなく、中高年世代にも回ってくる。私たち一人ひとりが当事者としてこの問題に向き合わなければならない時期に来ている。

62年生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授。専門は他にゲーム理論、障害と経済。著書に「高校生からのゲーム理論」「市場(スーク)の中の女の子」など。(引用ここまで)

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