12/21五輪4者協議の日 朝日新聞朝刊に上山信一氏のインタビューが載りました。
こちらを読んでからだと、また違った印象があるかもしれません…
(五輪)「足りないから1兆円負担してくれ」では納税者は納得しない。組織委の責任をはっきりさせ人事を刷新すべき!(上山信一氏怒りのツイート)
(インタビュー)東京都は変わるのか 都政改革本部特別顧問・上山信一さん:朝日新聞デジタル
(引用)
大阪府・市に続いて東京都でも目に見える「改革」が進められようとしている。しかも「豊洲」「五輪」と、みんながびっくりした課題を抱えて。東西の自治体トップから「特別顧問」を託された元官僚で元外資系コンサルタントは何を見て、どう変えようとしているのか。その手法に問題はないのか。――東京五輪・パラリンピックの三つの会場について、かえるかえると言って結局かわりませんでした。小池百合子東京都知事が負けたと見られていますが。
「大事なのはコストを抑えることです。私たちは2兆円3兆円かかりそうだという懸念からスタートしました。どう抑え込むか。その仕組みをどう作るか。日本の組織委員会と議論してもらちがあかない。そこで『3兆円かかるかもしれない』と発信したら、IOC(国際オリンピック委員会)がチャンスとばかりに反応した。今後、負担をいやがる住民の反対で招致都市がなくなることを恐れたのです。それで都、組織委、IOC、国の4者協議が出来て、とにかく総コストを早く開示しよう、都民の負担を下げようと一致した。こうして組織委に外圧がかかったのです。これが大事です」
――でも会場変更はできませんでした。
「目的はあくまでも最終コストの抑制です。すでに着工していたものを含め都の3施設で合計410億円、約2割強を削減できた。それに、まず隗(かい)より始めよです。IOCに対し、都は着工後でも見直す、総コストの抑制に手段は選ばないとアピールし、組織委にもコスト抑制の方法を教えた。会場変更は一石三鳥を狙ったわけです。今後の課題は個々の支出の抑制と管理です」
――今でもボート・カヌーの会場は宮城県の長沼の方が良かったと思いますか。
「はい。でも現実にできないものはしかたない。私はテクノクラート(技術官僚)なので『思い』で仕事はしません。でも小池さんには被災地への強い思いがありましたね。そもそも復興五輪で始まったのにと」
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――築地市場の豊洲移転も大変な課題です。問題の本質はどこにあると見ていますか。
「豊洲市場も五輪の施設も極端に高価なハコもの建設の話です。特に豊洲は、いくら規模が大きく土壌汚染があったとしても5800億円もかかるのは不思議です。一つの県の年間予算の額です。どうやったら使えるのか。計画から工事までのすべてが不透明。どこかにお金が消えたと思われてもしかたがない」
「もう一つは湾岸開発の視点。豊洲も五輪施設も、都は埋め立て地に建てたがった。確かに移転計画当時はトラックのために広大な場所が必要とされました。でも今やインターネットで売買できるし、物流基地は郊外でいい。民間企業なら築地は残して観光名所に改造するかもしれません」
「都には、ひたすら海を埋め立てて開発事業を続けたいという衝動と組織の慣性があるのでしょう。江戸時代からのDNAかもしれない。それが豊洲市場や五輪施設を作らせている気がする。とにかく海を埋め、何かを建てる。惜しげもなく金を使うことが自己目的化しているように見えます」
――豊洲の建物の下は盛り土ではなく空洞でした。でも、いつ、誰が、なぜ決めたのか、なかなかわかりませんでしたね。
「石原慎太郎さん以降、歴代の知事が組織をきちんと管理してこなかった。ガバナンス(統治)と情報公開の不足です。部下に全部まかせ、議会ともなあなあで、トップが事業をチェックしなかった。お金があるから、利害調整もあまり必要なかったのでしょう。ほかの自治体では20年ぐらい前からお金がなくなり、首長が『あきらめてください』と頭を下げて調整してまわった。その中で情報公開が進み、住民の意識も上がった。でも都は違いました」
――そこも改革しますか。
「いずれ東京も人口減少に転じます。超高齢化社会の時代に合わせて、当然、変えていかないと」
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――ところで、都庁に来て、見て、聞いて、感じたことは。
「最初の印象は『現状肯定型ばかり』です。五輪の問題で言えば小池さんから『一体いくらコストがかかるのか、本当にあれだけの施設が必要か』という問いが与えられました。それで都の担当部署をヒアリングすると、答えはいつも同じ。『IOCとの協約で守秘義務があって話せない』『資料は出せない』『議会に説明したことは変えられない』……。公務員が保守的なことには驚きませんが、都民への負担や情報公開の意識が薄いと気づきました」
――それでどうしましたか。
「IOCとの協約を見せて下さいと言ってもなかなか見せてくれない。小池さんが『知事室に持ってきて下さい』と言って、やっと知事室に届けられました」
――そもそも、特別顧問とは、どんな仕事をするのですか。
「知事の求めに応じ、職員とともに政策や業務の評価や見直しをし、改善策を提案します。都政改革本部には11人いて、私はその統括をしています」
――条例など法的な根拠は。
「設置要綱があります。改革本部のホームページを見て下さい」
――実際にはかなり踏み込んだ仕事をしていますね。これが顧問かと思った人も多いのでは。
「五輪の問題はかなり特殊でした。都には組織委の出費を管理する権限がない。ところが赤字は全部負担させられる。IOCとの協約の中でゆがんだ構造になっている。その中でコストを下げるには、タフな交渉と積極的な情報公開が必要です。ですから、知事の指示で国際会議に出て交渉したり、必要な時には記者会見したりしました」
「その他の案件も含め、知事と相談して行います。言われていないことは一切やりません。言われたからやる」
――知事に言わせることは。
「個別案件で、こういう状況です、次はどうしますかとキャッチボールする中で、はありますね。知事から電話がきて『これやって』と言われることもあるし、断ることもあります」
――今の立場は官僚と政治家に分けたら、どちらが近いですか。
「もちろん官僚です。霞が関出身の感覚でいうと、省庁の局長クラスの審議官の仕事に近い」
――役所内を調査するそうですが、どういうことを。
「例えば納税者の視点から質問を各部署にぶつけ、データや根拠を出してもらう。それを過去や民間、他県の実績などと比べて課題を洗い出す。政策評価といわれる手法です。役所の職員は優秀だし情報量も多い。でも仕事が大きい割に、何が本来の目的かわかっていないことがある。なぜ建てるのか、なぜこの広さなのか、基本的な問いに答えられないことがよくある。素朴な問いを発して一緒に考えていきます」
――具体的には。
「五輪施設の海の森を例にあげると、都の資料には年間35万人が来てにぎわうとある。でも本当に年間30回も大会が誘致できるのか、他の競技会場と競合しないのか。過去の事例と今後の計画を出して下さいと言う。すると、あれは競技団体側の努力目標だったとわかった、といった具合です」
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――調査チームは脚光を浴びました。こうした手法は、演出先行の劇場型、メディア活用型の改革に陥る恐れがありませんか。
「あるでしょうね。あるでしょうが、劇場って何でも利用しますね。観客を演者にすることもある。五輪の予算は知事のガバナンスがきかない特殊な案件でした。だから、何でも情報公開するしかないと考えた。過去に起きたこともいま起きつつあることも。するとメディアが小池さんや森喜朗さんを演者のように仕立てた。我々も評価にさらされ、週刊誌などで悪役にされました。みんなで劇場を作って関心が高まりました」
「そうしたら『2兆も3兆もかけるのはおかしい』とみんなが合唱し始めた。そうだそうだと私も言うし、客席の人も言う。大改革だから、最初のうちはこういう場面があってもいい。これくらいやらないと東京都は変わらない。でもずっとやるのは変だし、続きません。今まで起きたことは全部正しいと思っています」
――「改革屋」を自称する上山さんが目指すことは。
「官から民へ、そして国から自治体への分権化です。役所の仕事のうち、株式会社や財団など独立した経営組織に任せた方がいい分野はまだまだ多い」
――なぜですか。
「独立したら、当事者もやる気が出るし、楽しいからです。効率もサービスも良くなります」
「分権化とは、中央集権体制の見直しです。産業構造も各地域に合ったものにしていく。だから、私は一番自立できそうな大阪の改革を手伝ってきました。中央政府が全国を引っ張る仕組みは、もう時代遅れです」
(聞き手 編集委員・刀祢館正明)
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うえやましんいち 57年生まれ。運輸省、マッキンゼー社などを経て慶応大学教授。大阪府・大阪市特別顧問も。著書に「『行政評価』の時代」など。
同日、上山氏が出演したBSプライムニュース