「国際秩序が変化 単純に解けぬ9条 解釈変更ありうる」(朝日新聞:国際政治学者・中西寛氏)

今朝の朝日からです。(たまにはこういう記事も載ります・・・)

(にっぽんの現在地)国の安全を守るには 国際政治学者・中西寛さん

(引用)
 安全保障関連法制は、国民のあいだに強い反対があるにもかかわらず、成立した。こんなことでよかったのだろうか。残る課題は、何だろうか。識者への連続インタビューの締めくくりとして、国際政治の過去と現在を見つめる京都大学教授の中西寛さんに聞いた。

 ――歴史的にみると、現在の安全保障論議は、どんなところに位置するのでしょうか。

 「幕藩体制の終わりごろから考えてみると、日本を取り巻く安全保障環境は50年くらいの間隔で大きく変わり、対応を迫られています。現在もそれくらいの変化だとみるべきです。まず、18世紀末のロシアの南下政策です。それまで海は防壁であると受け止められてきたのですが、むしろ列強が自由に日本に攻め込んでくることができる通り道ではないか、というように認識の転換が迫られました。林子平が『海国兵談』で指摘し、19世紀半ばに米国のペリー艦隊がやってきて、明治維新へとつながりました」

 「19世紀の末には、西洋列強が帝国主義の性格を強めました。維新の元勲の山県有朋が、『主権線』である国境だけでなく、『利益線』である朝鮮半島も守らなければいけない、と唱えたのはこの頃でした。日本の安全のためには一定の勢力範囲を持たなければいけない、という考え方です。その後の日清戦争、日露戦争を通じて、日本は植民地帝国を建設しますが、1920年代から30年代にかけて米国やソ連、中国と摩擦が生じます。その結果、単独主義に走って侵略行為に出てしまいました。戦後は一転して、アメリカに安全保障を依存して平和を享受してきました」

 ――では、いまの変化とは何でしょう。

 「二つの変化が同時に起きています。一つは、米国が圧倒的な力で秩序をつくっていた時代が終わりつつあるということ。世界は多極化し、グローバル化しています。日米同盟の軸は変わらないとしても、どう役割分担するかを模索していく必要があります。もう一つは、中国の台頭。むしろ再台頭といったほうがいいかもしれません。いまの中国の態度を見ると、『我々はかつてアジアの指導国であった。朝貢を受ける国であった』という自己イメージを反映しているように見えます」

 「いわば、西洋が主導してきた国際秩序にたいして、伝統的な東アジアの国際秩序とでも言えるものが復活しつつあります。この二つにどう折り合いをつけるか、そんな模索がこれから20~30年にわたって続くのではないでしょうか。今回の安全保障関連法制も、そうした大きな流れのなかで見る必要があります」

 ――安全保障政策の大転換が進んでいる、ということですか。

 「比較的大きな転換と言えます。冷戦が終わったあと、90年代末に周辺事態法が、2000年代初めに有事法制ができたのですが、その後の対応は停滞していました。積み残しになっていた問題を一気にまとめて処理しようとしているのが、『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)』の改定であり、安全保障法制だと思います。個別にみるといろいろ議論すべき点はあったと思いますが、大枠としては正しい方向です」
(続く…)

(続き)
    ■     ■

 ――しかし、世論が二分され、支持が広がらない中での採決でよかったのでしょうか。

 「合憲か違憲かに話が集中してしまったのは残念でした。憲法、特に9条は、法律学だけで解ける問題ではありません。5次方程式が2次方程式のようには解けないように、通常の法律学では解釈できず、国際政治的な判断、すなわち、安全保障、国際法といったものを組み合わせて判断せざるをえないと思います」

 ――政府はずっと「集団的自衛権は憲法上、行使できない」としていました。それを安倍政権が変えてしまったことが問題で、むしろ単純な話ではないでしょうか。

 「そもそも個別的自衛権は認めるが、集団的自衛権は認めない、という解釈に一種のごまかしがあったと思います。専守防衛が日本の防衛の基本路線となったのは60年代からですが、それは日米安保体制を抜きにして考えることはできません。日米安保の下で日本は自衛隊を国外に派遣しなくてもよかった、そのために成り立った解釈だと思います」

 「1946年に憲法が制定されたときには、日本は特殊な条件のもとにありました。(国際連合が加盟国の侵略行為に対して制裁を加える)集団安全保障という枠組みがちゃんと機能すると考えられていた時期でした。しかも、敗戦国は武装解除されて長く国連の監視下に置かれるだろうと見られていた。憲法9条は50年代、日本が独立したとき、あるいは自衛隊が正式に発足したときに改正するのがスジだったのでしょう。しかし、国内の政治対立や国民の間に軍事への反感があり、できなかった。『個別的自衛権は行使する』という解釈に落ち着いたのは、当時の日本の政治家の知恵です。今回のように、環境が変わったら別の解釈に移るということは、十分ありうると思います」

 ――解釈変更に問題はないと。

 「ただ、解釈を変えるときのやり方は、いささか乱暴だったと思います。私も加わった『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』でもある程度は議論されましたが、憲法解釈の変更方法や国際法との関係について幅広く憲法学者や国際法学者を招いて議論し、世論の場でも合意を形成していくやり方もあり得たでしょう。時間はかかったでしょうが、論理的には可能だったと思います」

    ■     ■

 ――安全保障法案に反対する運動は大きな盛り上がりを見せ、デモに多くの人が集まりました。

 「現在の議論は、幕末の『鎖国か開国か』というときの議論と重なるところがあります。江戸幕府は実態としては鎖国というよりも貿易の拠点を限定した体制でした。それが19世紀になって、鎖国という言葉を持ち出して、これが徳川幕府初期からの『祖法』だと言い出した。この祖法という言い方、何か今の憲法に似ています」

 「私は日本人の平和主義がおかしいとか、否定すべきだとは思いません。ただ、感情や情緒にとどまっている限り、現代では通用しません。朝鮮半島や東シナ海、南シナ海、東南アジア地域での平和や安全に、日本は無関心ではいられない。そのために日本の防衛力をどう使うのか、議論をし、備えをしておく必要があります。反対運動をしている人たちに足りないのはそういう議論です。平和主義と外交・安全保障をどう両立していくか。そこから目をそらすならば、結果的に日本の平和や繁栄が保てなくなる可能性が高いと思います」

 ――法律ができた以上、今後の運用が課題です。

 「率直にいって、個別の事例について、もっと詰めた議論を国会でしてほしかったです。ペルシャ湾の機雷掃海や、朝鮮半島有事の際に邦人を輸送する米艦船の防護などが例示されましたが、それらが日米同盟で優先順位の高い事項かと言われれば、そうではないと思います。むしろ、北朝鮮のミサイルへの対処、中国の東シナ海や南シナ海での活動に対する牽制(けんせい)、あるいは中東での米国の軍事行動などが現実的な問題です。国際法上どう判断されるのか、国連の対応がどうなるのかも含め、あいまいにされている部分があります」

 「日本の安全保障や防衛の問題で不幸なのは、政府・与党は『おれに任せておけば、心配ない』という態度をとり、逆に野党や反対派は一律反対で揚げ足とりを優先し、議論が深まらないことです」

 ――運用のうえで懸念される「悪いシナリオ」は何でしょう。

 「邦人救出で米艦を防護する事例がありましたが、こうした話がひとり歩きしてしまうのが怖いですね。日本人がテロに巻き込まれることはアルジェリアでもチュニジアでもありました。90年代にもペルーで日本大使公邸占拠事件がありました。似たようなことが起きた場合、作戦の成功が十分見込めないのに世論の圧力で自衛隊を動かしてしまう、というのが一番心配なシナリオです。国会での議論は米艦による輸送なのですが、いったんことが起きるとそんなことは忘れられ、『政府は助けられると言ってたじゃないか。何とかしろ』とならないでしょうか。リスクの高い作戦をリスクを十分に検討することなく実行すれば、自衛隊員や人質、現地の人に犠牲が出てしまいます」

    *

 なかにしひろし 1962年生まれ。京都大学教授。現実主義の国際政治の論客として知られた故・高坂正堯(まさたか)氏に学ぶ。著書に「国際政治とは何か」など。

 ■取材を終えて

 どこか気持ちの落ち着かない取材だった。歴史や国際政治の現実から語りおこす中西さんの話に、引き込まれる。同時に、反発も覚えた。たしかに日本の平和主義は感情に支えられているところがある。だがそれゆえに、理念としての強さがあるのではないか。

 大事なのは、現実と理念の緊張関係を保ち続けることだろう。政府・与党が「おれに任せておけ」と言わんばかりに法律を通した後は、なおさらだ。

 (有田哲文)
(引用終わり)

『政府は助けられると言ってたじゃないか。何とかしろ』
作戦の成功が十分見込めないのに世論の圧力で自衛隊を動かしてしまう、というのが一番心配なシナリオです。

全く同感です。
中身をしっかり吟味せずに、感情が先に立って動いてしまう人達・・・
デモに参加するしないに関わらず、そういう国民が結構いた(いる)のでは・・・?

この所の難民受け入れ問題でも、その徴候を感じます・・・

中西氏の言葉の重み・説得力・・・
それに比べ、最後の記者のコメントの薄さ軽さ・・・が印象的でした・・・

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