「増税で財政再建できるか」 明治大公共政策大学院教授・田中秀明氏さん

記事をシェアして頂けると嬉しいです

消費増税に関連した興味深い記事を見つけましたので掲載します。

財務省を今春退官した田中氏が、消費増税を行おうとしている民主党・財務省、そして官僚機構の問題点を鋭く指摘しています。
多くの方に読んで頂きたいと思います!

(引用)

「増税で財政再建できるか」
明治大公共政策大学院教授・田中秀明さんに聞く財政再建

■予算決める責任、内閣に集約せねば無駄は止まらない

 消費増税法案は近く参院で採決され、成立する公算が大きい。だが民自公3党の間では、増税で借金を減らすどころか、国土強靱(きょうじん)化の名のもとで公共事業の財源にまわそうという動きがある。これでは財政再建がまた遠のく。日本はなぜ、再建につまずくのか。財政規律の回復には何が必要か。財務省を今春退官した田中秀明さんに聞いた。

     ◇

 ――消費増税法案が近く成立する見通しです。これで財政再建への道筋がついたと見ていいですか。

 「ねじれ国会という困難のなかで増税を進めてきたことは評価すべきですが、財政再建という意味では、ほんの一歩にすぎません。社会保障をはじめ歳出にメスを入れなければ、いくら増税しても足りない。砂漠に水をまくようなものです。特に年金や医療の効率化は不可避です」

 ――法案が衆院を通過した途端、公共事業増額の話が出てきました。

 「3党合意の負の側面です。民主党は『コンクリートから人へ』を掲げていましたが、『コンクリートも人も』になってしまった。そもそも政治家に限らず、官僚にとっても使えるお金は多いほうがいい。事業仕分けで無駄な予算が明らかになりましたが、財務省の査定では予算を切れないことの裏返しです。特定の利害関係者の反発を招く歳出削減より、みんなが負担する消費増税を決めるほうが政治的には楽なのです」
(続く…)

(続き)

――1990年代以降多くの先進国が財政再建に取り組みましたが、成功した国と失敗した国があります。成否をわけたものは何ですか。

 「財政規律を守る仕組みがあるかないかです。財政再建に成功したスウェーデンやニュージーランドには、政府が決めた財政目標どおりに運営されているか、国民が常に監視できる仕組み(財政責任法など)があります。目標どおりになっていなければ、最後は国民が選挙で判断する。政治家たちも財政データに基づいて議論するように変わりました」

 ――日本はなぜ、財政赤字が膨らみ続けているのでしょうか。

 「予算を決める政治の意思決定システムが官邸や与党に散らばり、だれかが責任を持って決めていない。予算の透明性も低く、使い道やその効果がよくわからない。これでは無駄な事業を止めようという力が働きません。むこう3年程度の社会保障や公共事業などの歳出枠を、首相と主要閣僚がトップダウンで決め、予算の効率的な使用は各省庁の事務次官が責任を負い、国会が監視する仕組みが必要です。財務省の査定は正しいという前提に立つ今の制度では無駄な予算も消化しようとします」

 ――日本でも閣議で決めたシーリング(概算要求基準)で単年度の予算を縛り、大枠を定めていますが。

 「日本のシーリングは一般会計の当初予算にしか適用されません。補正予算や特別会計でいくらでも増やせる。財務省は各省庁と厳しい調整が必要な時に、『補正予算や特別会計で何とかするから当初予算は我慢してくれ』と説得しやすいのです」

 ――財政再建に成功した国はどんな仕組みですか。

 「例えばスウェーデンでは(借金返済にあてる)国債費を除くすべての予算がシーリングの対象で、補正予算を組む場合もシーリングを守らねばならない。しかも3年分の歳出総額についてシーリングがかかり、決算ベースで守る必要があります」

 「日本の中期財政フレームは単なる見積もりです。内閣府や財務省の中期見通しに、わざわざ『将来の歳出・歳入を拘束するものではない』という趣旨の注を付けている。これでは将来の歳出・歳入は縛られず、財政再建につながりません」

 ――自民党時代の経済財政諮問会議は、首相の強いリーダーシップで重要政策を決めるのが狙いでした。

 「諮問会議によって、政策決定プロセスがより集権化・透明化されたのは事実です。それでもカナダやオーストラリアと比べると分権的で、与党と調整しないと決められない構図は変わりませんでした」

 ――民主党政権はどうですか。

 「発足直後は、閣僚委員会でトップダウン型の予算をつくる仕組みを導入しようとしましたが、絵に描いたモチに終わりました。結局、自民党政権より政策決定プロセスが分権化してしまい、だれがどう決めているのかさえ、わかりません」

 ――田中さんは「日本で予算制度改革が進まない理由の一つは、財政当局自身が政治化し、プレーヤーになっていることだ」と指摘してきました。財政当局の「政治化」とは?

 「財務省に限らず、日本の公務員は非常に政治化しています。役所や官僚自らが政治的な利害を持ち、天下り先を含め、自分たちの利益を最大化するように行動している。しかも与野党の政治家と常に接触し、貸し借りの関係を築いている。国の予算は、市場で決められないから政治プロセスを経て配分されているわけで、予算は政治そのものです」

 ――どの国でも財務省は政治に近いのではありませんか。

 「しかし日本の財務省は、時の政権の言うことを聞くことによって、自分たちの利害を守るという性格がひときわ強いように思います」

 ――例えば?

 「2012年度の一般会計予算の編成で、基礎年金の国庫負担の財源として、赤字国債とは別枠の交付国債を充てようとしました。真相はわかりませんが、赤字国債を抑えたい政権にこたえる知恵だったのではないでしょうか。財政赤字の大小は政策判断の問題ですが、会計をごまかせば、国民に真実が伝わりません」

 「民主党は国の総予算を組み替えるなどして16.8兆円を手当てし、マニフェストを実現するとしていましたが、実際はそれほど確保できていません。にもかかわらず政権交代後の10年度には、日銀納付金なども含めた税外収入10.6兆円すべてを自ら掘り起こしたように、官邸のホームページで説明しています」

 「しかし、こうした埋蔵金は地中に埋まっているわけではない。財務省は一般会計と特別会計を連結した資料を出していないので、特別会計などからお金を移すと、一般会計の財政収支が健全化したように映るだけです。埋蔵金取り崩しは会計上、赤字国債発行に等しいのですが、財務省はそう説明しません。財務省の資料だけでは実態がわからない。極端にいえば、政治におもねって国民をだましていることになります」

 「財政の実態を国民が理解しなければ、痛みが伴う財政再建はできません。だから透明な予算・会計制度が必要なのですが、財務省は後ろ向きです。透明になると、政治的な取引ができなくなるからでしょう」

■官僚の政治家断て 幹部の公募すすめ、省庁再編も柔軟に

 ――官僚の政治化は防げますか。

 「公務員の政治的中立性を実際に裏付ける仕組みが必要です。英国やオーストラリアは、幹部公務員に公募制を導入しました。専門的な能力と業績に基づいて任用するのです」

 ――なぜ公募なのですか。

 「日本では役所に入る時に競争しますが、ひとたび入ってしまえば役所の背番号が付き、退職後も関係する公益法人や企業で第二の人生を送る。生涯を通して役所の利益を守るというインセンティブが働きます。そのほうが生涯所得が高くなるからです。これでは政策立案がゆがみ、改革などできるわけがありません」

 「いきなり幹部全員の公募は無理だと思いますが、例えば韓国では98年から改革をはじめ、幹部ポストの2割は官民から、3割は公務員全体から公募しなければいけない制度を導入しました。能力と業績に基づいて幹部を選び中立性を高めることが会計のごまかしを抑制します」

 ――歳出削減を妨げる要因として、各省庁の強い縄張り意識も指摘されています。

 「その意味では官僚機構の再編を柔軟にすることも重要です。英国やオーストラリアでは、役所の組織は閣議決定により一晩で変えることができます。特に選挙後に新政権ができると、公約した政策課題を実行しやすいように組織が再編されます。日本の民主党は子育て支援の充実を掲げていますが、英国なら直ちに家族省が発足するのです」

 ――日本でもできますか。

 「日本では、各省庁の設置法で仕事が規定されています。民主的統制のためですが、各省庁の権益を守る盾になっている。例えば消費者庁は、福田康夫首相が消費者行政を強化する必要があると言ってから、組織ができるまで1年以上かかった」

 「官僚組織の再編が浮上するたびに、関係省庁は族議員を巻き込んで権限の切り分けに抵抗し、改革が骨抜きになる。組織は目的達成の手段であり、設置法は廃止すべきです」

 ――財政再建の話が公務員制度にまで及びましたが、難題ですね。

 「財政再建が最終的な目標ではありません。最大の課題は、少子高齢化を乗り切ることです。そのためには高度成長期に大きなパイを分配しやすいようにつくられた政治・行政システムを変える必要があります。民主党政権は変革を期待されて誕生しましたが、旧来モデルに戻りつつある。改革が先送りされれば、そのツケは国民が負います。会計をごまかすのではなく、負担をどう分かちあうのか、粘り強く説得することこそ政治の役割です」 (聞き手・山口栄二)

     ◇

■たなか・ひであき 60年生まれ。東京工業大大学院修了後、大蔵省(現財務省)入省。内閣府参事官などを経て今年4月から現職。著書に「財政規律と予算制度改革」。 

(朝日新聞デジタル 8/3)

トップへ戻る