柔道界の体質、払拭の時 山下泰裕さんに聞く

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桜宮高校の一件がきっかけになって、スポーツ指導における体罰問題が次々に上がり始めました。

「今こそ、スポーツに関わる人々は、大きな意識改革をしなければならない」
橋下さんをはじめ、多くの人が訴えています。

しかし、今までの方法論を否定する事に、戸惑いや抵抗を感じる人も少なくないと思います。

誰もが知る、柔道界いや世界のトップに上り詰めた方の言葉…
現状に悩んでいる方、疑問を持っている方…
是非、読んで欲しいと思います…

(引用)
柔道界の体質、払拭の時 山下泰裕さんに聞く

1984年ロサンゼルス五輪柔道無差別級金メダルの山下泰裕・東海大副学長に今回の問題について聞いた。

 女子強化スタッフによるパワーハラスメントについては、とても残念だ。

 正直に言うと、日本の柔道界には暴力や体罰という体質が残っている。私も含めて関係者は大いに反省し、その体質を払拭(ふっしょく)する契機にしないといけない。

 私自身は指導者に恵まれた。選手時代に殴られたことは一度もない。恩師たちの姿勢は、私の生き方にも影響を与えた。私の教え子にも、思いは引き継がれているはずだ。

 2004年アテネ五輪でこんな事件があった。韓国の女子選手が敗退すると、控室で男性コーチがその選手を平手打ちした。居合わせたカナダ選手が驚き、同国のコーチが国際オリンピック委員会(IOC)に訴えた。IOCはすぐ国際柔道連盟(IJF)に事実関係の確認を要望した。(続く…)

(続き)
 IJFはこのコーチを大会から追放し、韓国連盟を厳しく指導した。韓国連盟幹部からは「全身全霊で体罰の一掃に努力します」と謝罪があった。IJFの教育コーチ理事だった私は「日本も同じ。私も努めます」と答えた記憶がある。

 当時、全柔連と講道館は「柔道ルネッサンス」という運動をしていた。柔道の創始者・嘉納治五郎師範の理念に立ち返り、柔道を通じて人づくりをしようという活動だった。2010年まで10年間続けたが、大学指導者の準強姦(ごうかん)事件に続き、代表監督のパワハラ発覚だ。残念で、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 これを2人の問題としてはならない。柔道界全体で創始者の原点に立ち返る。それこそが被害を受けた方々への償いではないか。

 暴力や体罰は許されない。これは最低の指導方法ということを自覚することだ。自己研鑽(けんさん)を積んでいる指導者が暴力をふるう場面を私は見たことがない。自分の経験に頼るような指導者が、暴力に訴える傾向が強い。指導者は選手の3倍も5倍も勉強し、己を磨くべきだ。それをせずして、どうして選手を成長させることができるか。

 体罰と同じようにいけないのは事なかれ主義だ。マナーやモラルを教えなければいけないところで目を背けたり、逃げたりする。そういう教師や大人を私は何人も見てきた。

 いま、スポーツ界では選手のセカンドキャリアが問題になっている。どんなに優秀な選手でも、「学ぶ習慣」と「社会の出来事に関心を持つ姿勢」を持っていないといけない。殴られ、言われた通りにやっていても、身体能力が優れた選手なら、世界のトップに立てるかもしれない。しかし、引退後の人生は厳しい。

 日本の柔道界やスポーツ界から暴力・体罰による指導を一掃し、選手には第二の人生に生きるような競技生活を送ってもらう。その実現に向け、全力で取り組まなければならない。
(1/31 朝日新聞)

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